研究資料としてのゲーム、その保存と活用

去る7/18(土)に立命館大学にて開催された「立命館大学土曜講座 ゲーム学への招待」の第3回目「研究資料としてのゲーム、その保存と活用」を聞きに行ってきました。
限られた時間で駆け足にならざるを得なかったのですが、なかなか興味深い内容でした。
文化庁HPに「メディア芸術データベース」(https://mediaarts-db.jp/)が平成22年に設けられましたが、平成23年に「立命館大学ゲーム研究センター」を立ち上げた立命館大学がこのデータベースのゲームの部門を担当しているのだそうです(うるさ型が多いゲームマニア諸氏からは批判されることが多いと嘆いておられましたが)。
あとちょっと前にネット上で”炎上”して話題になってしまった(こちら参照→http://bylines.news.yahoo.co.jp/inoueakito/20131125-00030100/)「ゲーム関連資料の寄贈」に関してですが、現時点で家庭用ソフトが約4000本、家庭用ハードが約60台、書籍(「アルカディア」「ゲーメスト」「ファミ通」他)が約2200冊所蔵されているそうです。
本題のゲーム関連資料の保存についてですが、最近では国際的にもあちこちで学問的な動きが見られるとのことですが、まだまだ発展途上で問題点も多いとのことです。
以下ゲーム保存に特有の課題として指摘されていたことです。
1.所蔵機関の連携
・研究者の個人的ネットワークは活性化してきているが、機関的連携はまだまだ進んでいない
・システム的課題として、ゲームには書籍のISBNに該当するタイトル毎のIDが存在していない(先述の「メディア芸術データベース」における「GPIr」(例:「グラディウス(アーケード版)」では「0392300101383」)は立命館大学が独自に設定したものだそうです)ため、IDの国際共通化が必要ではないか
2.現物保存の方法論検討
・まず必要なのは温湿度管理可能な保管場所の確保及び最適な保管用具の開発が急務。特にアーケードゲームの保管において重要
・アーケードゲームの基板は紙・プラスチック・電子部品等から構成された”ハイブリッド”な製品なので、最適な温湿度を決めるのが難しい
・ハードウェアの修理・整備におけるノウハウの共有・継承とオリジナリティーの保全
・エミュレータの活用も一理あるが、完璧には再現できない
・Wii、DS等の特殊なインターフェイスをどう保存するか
3.現物が存在しないタイトルの保存
・過去のゲーム以上に今後はダウンロードされるデータしかないオンラインゲームやモバイルゲームの保存が問題になる
・オンラインゲームやモバイルゲームは母数が桁違いに多いため把握することすら難しいし、譲渡不可、プレイヤーが所有するデータだけでは動作しないこともある(サーバーにつないで初めて動く)、更にはアップデートによるバージョン変更もあってその各バージョンを保存するのは困難を極める
4.ゲーム経験の保存
・プレイヤーの民族史的研究(いまいちよくわからなかったのですが、例えば格ゲーのスタープレイヤーの歴史とか「ドルアーガの塔」の攻略にまつわるエピソードとか「グラディウス」の”復活パターン”の開発&伝播の話(1億点プロジェクトも含む)といったプレイヤーがゲームで行う一連のプレイの記録?)
・やはりここでもエミュレータの活用が考えられるが、エミュレータではハードウェア特有の経験を再現するのは極めて難しい(ここで例としてアーケード版「グラディウス」が挙げられていました)
これら以外に現在国立国会図書館においてもゲームに関して2003年から「納本義務」(本じゃないですけど)が課せられるようになったのですが、ハードの納入はされていないこと、及び納本制度であるが故に2003年以前に遡及できないという問題点があるとの指摘がありました。あと現時点でゲーム保存における学問の専門家、愛好家とゲーム産業の協働が難しい理由として、コストや著作権がネックになる(メーカーとしては保存するより破棄した方がコスト的にはまし)との指摘もありました。
最後に講師の方と少しお話しすることが出来たのですが、私からはこの分野では学者よりもいわゆる”ゲームマニア”の方が詳しい人が多いと思うのでそちら方面へのアプローチもしてみれば、と提案してみたのですが、それに関しては当然模索しているとのことでした(気難しい人が多いので及び腰になってしまうとのことですが)。
正直私が思っていた以上に研究が進んでいる(特に国際的にあちこちの国で)ことに驚いたのですが、それ故に問題山積になっているということもよくわかりました。
まだ始まったばかりのこの分野での学術的研究、とにかくもっと多くの人を巻き込んで議論を深めていくことが必要ではないか、と思います。